昨年2月24日のウクライナへのロシア軍による侵攻から約1年3か月。現在もウクライナでの戦争は継続されています。当初、ロシアによる侵攻により「短期間に終結する」との大方の予想に反し、ウクライナ軍の頑強な抵抗と欧米諸国の支援により、長期戦の様相を呈してきました。
しかし、このまま戦争が継続することは、ウクライナでの双方の犠牲者を増やすだけでなく、欧米や日本にとってもエネルギー高騰や物価高継続など、世界情勢全体にとっても望ましいことではありません。
そこで、この状況を打開して、戦争終結につながる現実的な和平案について考えてみました。
当初の予想に反するウクライナの抵抗
昨年の2月24日、ウクライナ各地へロシア軍のミサイルが飛来し、圧倒的な攻撃で制圧され、数日のうちにウクライナは降伏するものと思われました。ロシアの空挺部隊が首都近郊の空港を制圧し、地上部隊が首都キーウ近郊にまで進攻、ゼレンスキー政権が崩壊させられ、ウクライナは再びロシアの影響下に置かれるものと予想されました。
ところが、ウクライナのゼレンスキー政権による首都キーウを離れないという強い決意と、ウクライナ軍の善戦により、ロシア軍は首都近郊の空港制圧に失敗し、ずさんな作戦計画と補給により首都キーウに向かっていたロシア軍地上部隊の進撃も停滞してしまいます。
さらにウクライナの首都付近で立ち往生したロシア軍へ、ウクライナ軍の対戦車ミサイルやドローン攻撃が加えられ、多数の戦車や装甲車、補給トラックなどが破壊され、ついにロシア軍は首都キーウの攻略をあきらめ、近郊からも撤退するまでに追い込まれました。
その後、ロシア軍によるマリウポリ攻略など、ウクライナ東部から南部にかけて、ロシア側は占領地を広げたものの、欧米各国から支援を受けたウクライナ軍により、北東部のハルキウ、南部のへルソン北部と電撃戦により奪還されます。
今年の初めにはロシア軍が大規模な反撃に出たものの、バフムトでの進撃を除いては失敗したものとみられています。そして、この5月から今度は、ウクライナ軍による大規模な反転攻勢があるものとみられているのが、現在までのウクライナ情勢です。
ウクライナ・ロシア双方が飲める和平案
欧米や日本も含め、ウクライナ支援を行い、ウクライナ軍の反転攻勢に大きな期待をかけているようですが、おそらくそれだけでは戦争終結にはつながらないでしょう。
この期待に水を差すようなことは、本来言いたくはないですが、仮にウクライナ軍が反転攻勢に成功したとしても、いくら疲弊したロシア軍相手とはいえ、その戦力差から決定的な勝利を得ることは難しいものと思われます。
ロシアにしても、約1年3か月の戦闘で多くの装備と兵員を失って、ウクライナ軍に決定的な打撃を与えるのは、もはや難しい状況でしょう。
ウクライナ、ロシア双方が相手側に決定的な打撃を与えられず、戦争を終わらせる糸口が見つからなければ、かつての日中戦争やベトナム戦争のように、数年~十数年続く泥沼の戦いとなりかねません。
これではウクライナでの軍人・民間人の犠牲はもちろん、支援各国の疲弊、世界経済に与える影響は計り知れなくなります。
ここで単にウクライナへの支援だけではなく、現実的な和平案についても真剣に考え、実現していく必要があります。この戦争は、侵攻したロシアが不当な行為をしているとして非難されるべきですが、ロシアを批判ばかりでは戦争が終わらないことも事実です。
その上で当初の停戦交渉や欧米が考えていた和平案など、いくつかみられますが、おそらくウクライナ、ロシア双方が飲める和平案は、ゼレンスキー大統領が主張する「昨年の2月24日以前の状態に戻すこと」だと考えられます。
つまり、クリミア半島を除いて、ロシア軍がウクライナから撤退することだと思われます。
なぜかといえば、ウクライナは本来クリミア半島も含め、全地域を取り戻したいと考えていますが、そこまで主張すればロシアが和平交渉に乗らないと認識しており、昨年の2月24日以降のロシアの侵攻によって占領された地域を取り戻すことを掲げています。
それではロシアには、戦争した大義が全くなくなり和平には到底応じないのでは、との声が聞こえてきそうですが、そこは少し違います。
ロシアは、ウクライナが欧州の軍事機構であるNATOに入ることを懸念して今回の戦争を起こしたのであり、「ウクライナがNATOに入ろうとしたら、脅しではなく再び侵攻するよ」とのメッセージをこの戦争で見せつけました。
ウクライナは、クリミア半島の帰属問題に関して、外交交渉での解決の余地を示していますし、ロシアは、ウクライナがNATOに入らないことを確約させることが最大の目的すので、昨年の2月24日の戦争前の状態にウクライナ領土を戻し、ウクライナはNATOに入らないと確約する代わりに、ロシアは「ウクライナがNATOに入る意思を示さない限り、不可侵を約束する」という和平案が現実的と言えるでしょう。
戦争を防げなかった西側諸国の責任
とはいえ、「ウクライナがNATOに入らないと確約して、その意思を今後も示さなくても、ロシアはウクライナに対して領土的野心を抱くのでは?」との懸念の声が聞こえてきそうです。
あるいは、ロシアは地政学的にウクライナの不凍港であるクリミヤ半島や資源地帯を欲しかったから侵攻したとも言われています。何より2014年のマイダン革命によって親米・欧米の政権が誕生し、引き継がれているというのが、プーチン氏の逆鱗に触れ侵攻の要因になったとも言われています。
ただ、クリミア半島は地政学的に、そして親米・欧米政権になったことをきっかけにロシアは軍事力を使って併合しましたが、それ以外の地域に関しては、上記の要因による侵攻の動機としては薄いだろうと考えられます。
これら地政学的、親米・欧米よりの政権がその要因ならば、マイダン革命後から8年もたたないもっと早いうちに、ロシアはウクライナに侵攻したであろうからです。
また終戦後、再度のロシアによる侵攻の懸念はまったく捨てきれませんが、そうであればこそ今回の戦争のように、もしNATOに入らないウクライナにロシアが侵攻しようとしたら、「欧米諸国はウクライナを全力で支援し、ロシアを撃退するため、あらゆる手を尽くす」という取り決めを行い。ロシアにその取り組みを見せつけて抑止力にすればよいでしょう。
ウクライナ側も、今後NATOに入るようなそぶりや、あいまいな態度を見せれば、またロシアの侵攻を招くという抑止が働くでしょう。
クリミア半島を除いて、現在ロシアが占領しているウクライナ地域の維持にかかるコストの大きさをロシア側に認識させ、それを手放して和平に応じる方が、膨大なコストの削減と、国力の立て直しにつながるということを認識させる必要があります。戦争が終われば、ロシア国内で起きているウクライナ側の協力者やパルチザンによる破壊活動も停止するでしょう。
戦争前にロシアがウクライナに侵攻する兆候をつかんでいながら、それを止められなかったアメリカをはじめ西側諸国の責任としても、きちんとこういった和平案を考え、トルコなど非西側諸国とも協力し、実現して戦争終結につなげる必要があります。
今の状況で、ウクライナ軍の反転攻勢が成功し、ロシア軍に大きな打撃を与えてからの交渉になるものと思われますが、フランスやドイツ、トルコなどの国が共同で仲介して、「昨年の2月24日以前にウクライナの領土を戻し、ウクライナのNATO非加盟を確約する代わりに相互不可侵を約束する」和平条約を締結する。
もし一方が約束を破れば、その代償は大きくなるということをウクライナ、ロシア双方に認識させ、和平条約を締結して、一刻も早くこれ以上の戦争の犠牲者をなくすことが望まれます。
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