ウクライナ軍の反転攻勢、バフムトでの反攻はその序章か?

戦争

ウクライナの戦争で、今年1月から始まったロシア軍の攻勢は、ウクライナ東部のバフムトでの進撃以外は目立った進展がなく失敗したものとみられ、近く今度はウクライナ軍による大規模な攻勢が行われると予測されています。

そして先月末から今月上旬にかけて、前線後方のロシア軍支配地域であるクリミヤ半島などの石油タンクの火災や、補給物資などの兵站に対してのミサイル攻撃など、ウクライナ軍による反転攻勢への準備攻撃とみられる攻撃が活発化しています。

さらにロシア軍の激しい攻勢によって陥落間近とみられていた東部バフムトでも、ウクライナ軍が反撃に出て、ロシア軍によって占領されていた陣地の一部を奪還するなどの動きが出てきました。

このバフムトでの反撃は、ウクライナ軍による反転攻勢の準備攻撃の一環なのか? 本格的にバフムトを奪還して、反転攻勢につなげるのかを見ていきたいと思います。

兵站戦の攻撃、バフムトでの反撃

ウクライナ軍が「近々、反転攻勢に出るだろう」との観測はすでに多くのメディアで報じられており、今さら詳しく書く必要もないですが、前線後方のロシア軍の占領地域への石油精製施設や補給物資へのミサイル攻撃など、反転攻勢の準備攻撃とみられる攻撃が続いています。

ウクライナ軍が直接・間接的に関与しているとみられる、ロシア国内での破壊工作やロシア軍の戦闘機や攻撃ヘリの同時墜落など、内外からロシア軍を揺さぶって反転攻勢を容易にしようという思惑が見えてきます。

さらにロシアの対ドイツ戦勝記念日である今月9日から、ロシア軍の攻勢によって陥落間近とみられていた東部バフムトでウクライナ軍が反撃を開始し、ロシア軍陣地の一部を奪取。国内での戦勝記念日に向けてバフムト占領を目標に掲げていたプーチン氏の面目を完全に潰す形で、今現在もウクライナ軍による反攻が続いています。

このバフムトでの反攻は、ウクライナ軍が完全にバフムト地域を奪還するために仕掛けた攻撃なのか? あるいは、バフムトにそのほとんどの戦力を集中させているロシア軍を釘づけにして、南部ザポリージャやへルソンへの反攻を容易にするための、囮攻撃なのか?

結論から言えば、小泉悠東大先端研専任講師が指摘するように後者の囮攻撃の可能性が高いと言えます。今バフムトにロシア軍がそのほとんどの戦力を集中させている中で、激しく損耗し弱体化したとはいえ、バフムトからロシア軍を撃退するのは難しいでしょう。

それよりも、バフムトで陥落しない程度にロシア軍陣地を奪取して、この地で膠着状態を作り出す。精鋭とみられるロシア軍の空挺部隊や特殊部隊も含め、他に転戦させないように釘付けにし、南部でのロシア軍の守りを手薄にする方がウクライナ軍にとっては得策とみられます。

それに、この戦略的にあまり重要でないバフムトを完全奪還するためにも、攻撃側は防御側の3倍以上の兵力がなければ、確実な勝利を得られない「攻者3倍の法則」を適用しなければいけないので、反攻のための兵力を割くのは、ウクライナ軍にとって得策とは言えません。

ウクライナ南部への攻勢、クリミヤ半島の孤立化

こうして反転攻勢への準備攻撃を行い、ウクライナ南部地域へのロシア軍占領地域に対する大規模な攻勢をウクライナ軍が行うものと予測されます。

この予測に関しては、ロシア軍も完全に分かっており、南部のロシア軍占領地域では3線の塹壕(兵士が敵を攻撃し、敵からの攻撃を回避するための壕)、竜の歯(コンクリート製の障害物)、対戦車壕(敵戦車を足止めさせる穴)などで待ち構えています。

ただし、ウクライナ軍がどこから攻撃を仕掛けてくるのかは分からないので、攻勢をかけるウクライナ軍の3分の1の兵力をどこに配置すればよいかということに悩んでいるでしょう。

攻勢をかける側は、防御側の弱いところを狙って攻撃を仕掛けるので、今はウクライナ軍、ロシア軍ともその情報の探り合い、偽情報を流して相手を欺く騙し合いが行われていると見られます。

ウクライナ軍は、南部のへルソンやザポリージャなど、どの地点から攻撃をかけるのか、それは極秘・相手の配置状況によるので、今後も攻撃発起点や進撃路の変更はあるでしょうが、攻撃発起点や進撃路を主体的に選べるという点で、守るロシア軍より有利だと言えます。

守るロシア軍としては、予想した地点にウクライナ軍が来てくれない限り、ウクライナ軍の攻勢に合わせて兵力を移動させる必要があるので、相手に振り回される可能性もあります。

ウクライナ軍としては、この攻勢によって南部のへルソンやザポリージャを奪還し、クリミヤ半島を孤立化させ、ロシア側の戦意喪失を狙っているのでしょう。仮に戦意を喪失できなくても、もうこれ以上の戦争継続は無理だとロシア側に思わせ、そこで和平を結ぶことを考えていると思われます。

楽観はできない

このように、現時点でウクライナ軍優位とみられるとはいえ、楽観視はできません。陸戦ではウクライナ軍が有利でも、依然ロシアの陸上戦力は侮れませんし、ロシア空軍は未だにほぼ無傷です。さらにロシア側は電波妨害の技術に優れているとみられ、ロシア軍の電波妨害により、ウクライナ軍のハイマースなどのミサイル兵器の命中精度が下がる恐れも指摘されています。

さらに、もしこのウクライナ軍による反転攻勢が失敗する、あるいは大した成果が出せないまま終わってしまうと欧米での支援疲れによって、ウクライナへの支援が減少して、ロシア軍が形勢を挽回する恐れもあるなど、今後もウクライナ情勢への注視が必要と言えます。

 

 

 

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