昨今、日本での年間出生数が80万人を割るなか、厚生労働省は「50年後に日本の人口が8000万人台に突入する」との予測を発表。そこで、もはや少子化対策は待ったなしと言われています。
一方、非正規の拡大、物価高、それに伴う生活・教育費の高騰から、子供を持つことは「贅沢品」との声も聞こえてきます。そもそも、なぜ少子化対策は「待ったなし!」と言われるのか? どのようにすれば、子供を産み育てることが「贅沢!」と言われなくなるのでしょう。
社会保障を支える要員としての少子化対策
出生数が当初の想定よりも数年早く年間80万人を割り、「50年後には日本の人口が8,000万人台に突入すると」と予測されています。すると何が起こるのか? まずは年金制度などの社会保障を支える担い手が激減して、制度そのものの維持が危うくなると言われています。
実際、高齢社会白書によると、1950年時点では12.1人で1人の高齢者を、2017年では2.2人で1人の高齢者を支えていましたが、2065年では1.3人で1人の高齢者を支えることになると予想されており、このためには少子化に歯止めをかけなければいけないと言われています。
しかし、人口を現在の水準に維持するには、合計特殊出生率が2.07は必要だと言われており、現在の非正規の拡大や物価高という経済的な面からも厳しくなっています。何より、子どもを産み育てるか否かということは、個人の自由であり、政治家が「子ども生まないとバカなことを言っている」といって、子育てをする人が増えるわけではありません。
確かに人口減少が進むと、社会保障だけでなく公務員の担い手も減り、行政サービスが行き届かなくなるという懸念もあります。
ただ、現在の年金制度の根本は、「団塊の世代をはじめとする生産年齢の人口増加と、一方で高齢者の少なさ」という高度経済成長期を想定した制度であり、適切な少子化対策を実行しても減少していく日本の現状に合わなくなってきているという事実もあります。
人口減少に合わせた社会像
したがって、少子化で年金制度が支えられなくなるのであれば、それに合わせた制度改革がまず必要でしょう。今までの現役世代が現在の高齢者の年金保険料を支払うという賦課方式から、賦課方式の一部を自分の年金保険料を支払う積み立て方式にして、数年ごとに徐々に積み立て比率を上げて、完全に積み立て方式に移行するなど、何らかの制度自体の改革が必要となってきます。
また、公務員などの場合も、人口減少に合わせた制度に移行する必要があります。現在行われている公務員の定年延長もその一つですし、行政サービスも今現在の人口数よりも少ない人口数を想定して行えばよいことになります。
限界集落、消滅する集落が増えるという懸念も、これは人口減少に端を発するというよりも、その集落から他へ移住する人や自然減が問題のなのであり、たとえ人口減少が止められたとしても、問題の根本解決にはなりません。人口が減少しても、集落に定着したいと思えるような工夫が必要になってきます。
日本の人口減少が止められないとして、どのくらいの人口減少で抑えられれば良いかということは、専門家の間でも意見が分かれるところですが、単純比較はできなものの、現在約8,300万人のドイツが50年後の日本の人口に近いので、必ずしも悲観する必要はないでしょう。
「子どもを産み育てたい」と思える社会づくりこそ、一番の少子化対策
とうに時代に合わなくなっている社会保障制度の維持という観点から、少子化対策を見たとき、子どもを産み育てることは、その子供に先送り、あるいは現在の政策の失敗の犠牲になれということであり、非正規・物価高、将来の先行きが見えないなかで、「生まれてきた我が子の未来は暗い」「そんな社会で生きていくことになるなら、子どもは生まない方がマシ」と考える結婚・出産適齢期の若者が増えることも無理はありません。
何より、非正規が増え格差がますます拡大する中で、結婚して生活していくことすら難しいのですから、子どもを持つなんて、夢のまた夢、という考えが広まるのも当然です。
子どもの学費がかかり、奨学金を借りて大学に入った人は、卒業後その返済で手一杯となり、「子どもは可愛いし、出来れば育てたいと思うが、奨学金を18年かけて返済する必要があるので、子どもは絶対に持たない」という女性の声もあります。
少子化対策を本気で行うのであれば、まずは経済格差をなくすこと、非正規と正規の格差をなくすだけでなく、正規雇用を増やすこと。結婚して、子どもを産み育てたいと思える社会環境を整える必要があります。
さらに出産一時金などの金銭的な支援はもちろんのこと、出産・育児の外的支援、子育ての悩みを相談できる機関の設置や、登録制での高齢者による子どもの預かり制度など、仕事と両立もできるような制度構築も考えられます。
このように、子どもは家庭だけでなく、地域・社会全体で育てるという考えが必要になって来るでしょう。
大学も、まずは国立大学の無償化など、教育費の軽減をする必要があります。
これから人口が減るのであれば、その人口減を無理に止めようとするのではなく、人口減少に合わせた社会づくり、制度づくりをしていかなければなりません。その限られた人口の中で一人ひとりが活躍し、尊重できる社会づくりができれば、結婚し子どもを産み育てたいと思える人が増え、結果的として少子化対策につながるのではないでしょうか。
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