近年、弾道ミサイル発射実験の頻度を加速しているなど、北朝鮮の核・ミサイル開発が止まりません。
さらに、アメリカでの衛星画像の分析などにより、北朝鮮は近く、同国としては初の軍事偵察衛星を打ち上げるとの観測が流れています。では北朝鮮はなぜ、このようなミサイル開発を推し進めるのか、日本へのミサイルの落下の可能性はあるのか?などについて見ていきたいと思います。
北朝鮮は、なぜミサイル開発を進めるのか?
北朝鮮は、2022年に過去最多の37回のミサイル発射実験を行い、今年2023年の2月18日にはICBM(大陸間弾道ミサイル)を発射し、北海道西方約200キロの日本のEEZ(排他的経済水域)の内側に落下。
日本のEEZ内への落下は、2022年の11月18日以来でミサイル発射実験の頻度が増しています。
では、なぜ北朝鮮はこれほどまでにミサイル開発や発射実験を繰り返すのか?
それは、第一にアメリカの存在があります。
北朝鮮は、1953年の朝鮮戦争における休戦協定以来、朝鮮半島の北緯38度線を境に在韓米軍をはじめとするアメリカ側と対峙しており、通常戦力ではその質量から勝ち目がないことを認識しています。
したがって、通常戦力では勝ち目がない分、核を搭載できるミサイルの開発を推し進め、「こちらに攻めてきたら、核ミサイルを撃つぞ!」という抑止力のために用いようとしています。
また、その核開発を利用して、「核開発の凍結(のふりをする)」によりアメリカから経済援助を引き出すなど、外交カードとしても使用してきました。
最近は、強い態度で臨むアメリカのバイデン大統領のもと、米朝の対話は行われておりませんが、「アメリカに振り向いてもらうため」もあって、北朝鮮は引き続きミサイル開発を推し進めています。
さらに北朝鮮では、国防5か年計画というものを策定し、それに沿ってミサイル開発を進めているので、ことさら北朝鮮が強硬策を実施しているということでもありません。
日本への落下の可能は?
これは結論から言えば、可能性がゼロとは言えないものの、日本に北朝鮮のミサイルが落下する可能性は極めて低いと言えます。
これまで見てきた通り、北朝鮮のミサイル開発は、在韓米軍をはじめアメリカ側と対峙する目的で進められているので、日本はほとんど眼中にないというところでしょう。
核戦力とは、少数の核ミサイルを持っても不十分であり、一発で相手を壊滅させる能力があれば別ですが、そうでなければ相手を上回る性能と数の核ミサイルがなければ、優位性は保てません。
ただでさえアメリカの核戦力に対して質量ともに、圧倒的な差がある北朝鮮が、なけなしの核ミサイルを日本に使って、日米安保条約に基づく反撃を受ければ、ひとたまりもないことを北朝鮮はよく分かっています。
北朝鮮がミサイル開発を行う大きな理由は、この核戦力による抑止で在韓米軍をはじめとするアメリカの侵攻を防ぎ、金正恩体制を維持することであり、そのために全くメリットのない日本を攻撃して、わざわざ自分たちからその体制を危うくすることは考えにくいからです。
その証拠に、今までミサイル発射実験を日本海周辺で行って、日本の周辺に落下させてもEEZ内外への落下にとどめて、日本の主権が及ぶ領海には決して落下させていません。EEZ内は経済的な資源を日本が優先して扱えるのみで、主権が及ぶ領海ではありません。
弾道ミサイルの燃焼し終わったロケット部品の落下は、打ち上げる時の方向・角度・ロケットの燃焼時間によって決まります。ピンポイントに落とせないものの、EEZ内外への落下は「決して日本の領海に落としてはいけない」という北朝鮮のコントロールが働いています。
かりに誤ってでも、日本の領海や領土に落下すれば、それは誤りでは済まされません。
もし、北朝鮮が日本にミサイルを打つことがあれば、それは金正恩体制の崩壊を意味します。そして、このことをどこよりもよく分かっているのが、北朝鮮だということです。
何が脅威で、何が脅威でないのかを見極める
このように北朝鮮のミサイル発射実験のたびに、ひとり関係のない日本がメディアを通じて騒いでいる印象がありますが、確かに北朝鮮の核開発は脅威であることは間違いありません。
この核を北朝鮮が使用するというより、その技術がテロ組織などにわたって、国家では相手に対して、安易に使えないという抑止が働かないからです。国組織では、相手方に安易に使用すれば反撃を受けることを覚悟して、その使用を思い止まるところを、テロ組織にはその抑止がありません。
反撃を覚悟することもなければ、特に実行犯は自分の犠牲と引き換えに放射性物質をバラまく気になれば、躊躇はないでしょう。
そういう意味で、開発や保有による放射性物質の拡散、事故の懸念も含め、核拡散は抑えていかなければいけません。
ただし、日本のメディアが今回も「軍事偵察衛星の打ち上げと称する、事実上の長距離弾道ミサイルの発射を予定している」という明らかなミスリードには、注意が必要です。
まず衛星打ち上げには、歴史的に見ても必ず弾道ミサイルの技術が用いられていること。
米ソ冷戦時代のミサイル開発を見ればわかる通り、当時の米ソ両国は、まず弾道ミサイルの開発を進め、それを大型化していく過程で、その弾道ミサイルを使用して衛星の打ち上げや有人飛行を行ってきたという歴史があります。
アポロ11号での月面着陸を行うために打ち上げた「サターンV」というロケットは、月に行くために必要な推力から、それ専用のロケットが作られましたが、それ以前に使用した宇宙ロケットはもともと弾道ミサイルです。
つまり、弾道ミサイルに弾頭を載せれば兵器となり、衛星や宇宙カプセルを載せて打ち上げれば、宇宙ロケットになるということです。これは発射プログラムの違いに過ぎません。
最初から宇宙ロケットの開発を進めてきた日本の方が、むしろレアケースで、多くの国が北朝鮮同様の開発過程で衛星を打ち上げてきたので、驚くこともなく、偵察衛星を1基打ち上げたところで大した脅威にもなり得ません。
そして衛星の打ち上げなどは、その国固有の権利なので、もし北朝鮮が弾道ミサイルの技術を用いた衛星打ち上げを禁じられるのであれば、世界のどの国も宇宙ロケットを打ち上げてはならないことになります。
このように、やっていることがよく分からないと思える北朝鮮に対しても、何が脅威で何が脅威でないのかを見極め、メディアの情報発信に振り回されことなく、考えていくことが重要です。
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